「おかやま山陽高等学校で野球がしたい。」
と、進路決定の中学三年生の夏、私は思い切って両親に言いました。
すると、両親は面食らった顔をしました。しかし、友達と行ったオ
ープンスクールで、野球部の監督に逢い、どうしてもこの学校で野
球がしたいと思ってしまったなどと、私が話す言葉をじっと聞いて
いた父は、しばらく考えてから、
「分かった。お前の好きな学校に行けばいい。以前野球の試合を見
に行った時、たまたま隣に座っていた人と話が弾んだ。その人が
お前の行きたいという学校の監督さんだと後で分かった。もう逢
うことは100%ないと思っていたが、不思議なご縁やなぁ。」
と、受験を許してくれたのです。
私はお寺の長男として生まれました。「お寺の子」と言われるの
は嫌ではありませんでしたが、「勉強が出来て優等生である」と決
めつけられることには抵抗がありました。小学一年生から衣を着て、
父と一緒にお盆参りに行きました。そこでは、
「よく参って下さった。将来頼むよ。」
と言われ、頭を撫でられましたが、自分に何を期待し、求められて
いるのか分かりませんでした。しかし、父は皆に頼りにされている
ということは何となく伝わってきました。
小学五年生の時、高野山に行き、二泊三日の「こぼんさん修行」
に参加させていただき、皆と仲良くなり、とても楽しい時間を過ご
しました。そして、得度も行い、戒名もいただき、お坊さんになる
ための一歩を踏み出したことへの喜びでいっぱいでした。
しかし、小学生の時は、地元のソフトボールチームでお世話にな
り、中学校では軟式野球部に所属し、野球中心の生活が続き、地元
の高校でどうしても野球を続けたいという思いが強くなったのです。
何も考えずに、親の敷いたレールに乗って、すんなりとお坊さんに
はなりたくない気持ちもありました。許してはもらえないと思いな
がらも、自分の考えを話すと、父は「ご縁だから」と地元高校への
受験を許してくれました。しかし、親に申し訳ない気持ちがあり、
受験当日、私は父に本当に良いのか尋ねると、
「大丈夫だ。自分の意志でお坊さんの修業をしたいと思った時に、
高野山に行ってしっかり修行をしたら良い。色々な経験をするこ
とも大切だ。今は夢中になれることを一生懸命に頑張れ。その経
験が、将来に生かされてくる。」
と言ってくれたのです。
今高校では野球部員として、朝から晩まで、どんな日でも毎日ボ
ールを追いかけています。その中で、古くなった野球道具を修理し
て発展途上国の子ども達に贈るボランティア活動もさせていただき、
世の中には色々な人がいることも知りました。夢を持って入学した
高校生活は充実していますが、これら全ては、良いご縁に恵まれた
からだと思います。
現在の日本では、夢のない若者が増加したと言われています。内
閣府が発表した平成24年度版子ども若者白書によると、将来に不安
を持っている子どもが八割を超えたというのです。夢を持つことを
重荷と考えたり、夢を叶えられず、辛い想いをするくらいなら、持
たない方が良いと考え、夢を持たないことが自己防衛の手段になっ
ているとも考えられます。
しかし、これは子どもだけの責任でしょうか。今の私にはどうし
て良いのか分かりませんが、夢を持つことが難しい環境になってい
るのも一つの原因ではないかと思います。幸い私は、家族や地域の
方々、先生や信頼できる野球の仲間に恵まれ、また、この弁論を通
して、このような場に立たせていただくご縁を頂き、夢を持つこと
が出来たのです。今、私は大きな夢を持っています。将来は父のよ
うなお坊さんになり、地域の子ども達に野球を教え、多くの子ども
達がそれぞれの夢を持って生活できるような心を育て、また、お年
寄りの方からも信頼していただけるような生き方がしたいのです。
ご縁を糧に、夢を持って、私自身成長していきたいと思っています。
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