言葉に支えられて　　　　岡山市立興除中学校　唐井紬さん

　「どうしよう。このままでいいんだろうか……。私がやっていて
大丈夫なんだろうか……。もういやだ、やめたい。」

　みなさんは、何かを諦めたり、途中で投げ出したりしたことはあ
りませんか。つまずいたとき、失敗したとき、どうやって乗り越え
てきましたか。

　私には、何かを諦めそうになったり、不安やプレッシャーに押し
つぶされそうになったりしたことが、何度もあります。

　今、私は吹奏楽部に所属していて、コンサートマスターという、
合奏などの指揮をする仕事を任されています。一見、指揮棒を振っ
ているだけなので、楽そうだな、とか、かっこいいとか思う人もい
るかもしれません。しかし、みんなの音を合わせて一つの音楽を作
る役割なので、実際にやってみるといろいろな悩みが出てきてしま
います。

　例えば、みんなの音が一つにならず、うまくいかなかったときは、
「自分が演奏を悪くしてしまっているのだろうか。」とか、「私が
指揮をしていいのだろうか。誰か別の人がした方がいいのでは…。」
などと、ネガティブなことばかり考えてしまい、不安や悩みが次々
とおそってきます。さらに、私は二年生なので、後輩のお手本にな
らなければいけない立場です。先輩の私がつまづいていたら、後輩
や部を引っ張っていくことはできない、というプレッシャーにも押
しつぶされそうになります。そんなたくさんの不安やプレッシャー
が重なって、大好きだったはずの部活が、だんだんつらいものにな
っていきました。「今日もうまくいかなかったらどうしよう。」
「みんなに悪く思われていたらどうしよう。」「もっともっと練習
しないと……。」でも、そんなときに限って学校の行事が重なり、
思うように練習時間が取れません。週末には地域のお祭りで演奏す
ることになっているのに、全体での合奏はできないまま、本番を迎
えなければいけません。「失敗したらどうしよう。」こんな状態で、
いい演奏なんかできるわけがない。」不安や焦りで頭がいっぱいに
なり、どうしようもなくイライラしていた私は、家族に対していら
だちをぶつけてしまうこともありました。無邪気に「姉ちゃん、遊
ぼう！」と言って部屋に入ってきた弟に「うるさい。黙ってて！」
ときつく言ったり、「大丈夫？」と心配してくれる母に「ほっとい
て！」と言ったり……。自分でもどうしていいかわからず、一人で
憂鬱な気持ちを抱えていたそんなある日、先輩からもらった一通の
手紙が、私の気持を大きく変え、悩みを吹き飛ばしてくれたのです。

　私の様子を心配してくれたのか、その手紙にはこう書いてありま
した。「プレッシャーとか不安とかたくさんあると思うけど、何よ
り大切なのは〝楽しむ〟ということだよ。」と。その言葉で、私は
目が覚めたような気がしました。不安や悩みでずっと頭を抱えてい
たけれど、一番大切な「楽しむ」ということを忘れていたのです。
初めて楽器に触れたときの新鮮な喜び。なかなか良い音が出せず、
何度も練習を繰り返してやっと良い音が出たときの感動。文化祭の
あと、「ソロ上手だったよ！」「盛り上げてくれてありがとう！」
と言われて味わった達成感。そのどれもが貴重な経験で、振り返る
と自然に笑顔になれる思い出です。自分の好きなことができる、そ
れだけで幸せなことなのに、目の前のプレッシャーや不安で頭がい
っぱいになり、大事なことを忘れていたのです。

　それからは、「楽しむ」ということを意識しながら部活に取り組
むようにしました。そうすると、「あ、今音がぴったり合った！」
とか「今日はまとまりがあるなあ。」など、ちょっとしたよいこと
を、素直に喜べるようになってきました。そして、「自分の手で音
楽を作るのってこんなに楽しいんだ。」とまで感じられるようにな
ってきたのです。

　人は、言葉に支えられて生きている。私が先輩の言葉で前向きに
なれたように、たくさんの人が言葉に支えられ、助けられて生きて
いるのだと思います。

　もちろん、言葉が人を傷つけ、苦しめることだってあります。私
が母や弟に八つ当たりしてきつく言ったときも、二人とも、とても
悲しそうな顔をしていました。傷つけようと思って口にした言葉で
はなくても、知らず知らずのうちに誰かを悲しい気持ちにさせてし
まうこともあるのです。たくさんの言葉が、相手の心や態度を変え、
もしかしたら相手の人生も変えてしまうかもしれません。言葉は、
使い方しだいで「花束」にもなれば「ナイフ」にもなるものなので
す。そのことを肝に銘じて、相手を思いやり、励ませるような言葉
を使いたいと思います。先輩の言葉のおかげで、私が前向きになれ
たように、誰かを前向きにできるような言葉をどんどん使っていき
たいと思います。

　今、私にとって部活動は自分が心から楽しいと思えるものです。
熱心に指導してくださる先生や先輩がいる。一緒にがんばれる仲間
がたくさんいる。いつも部活動ができる時間が待ち遠しくてソワソ
ワしています。

　私はこれからも部活動を楽しみたいと思います。先輩の言葉に支
えられて。

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