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倉敷東ライオンズクラブは岡山県倉敷市東部地域を中心に活動する奉仕団体です。

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命の長さ    倉敷市立東陽中学校 丸山 静香 さん


 あれでよかったのか、と、ずっと考えていることがあります。そ
れは、私の曾祖母のことです。

 私の曾祖母はオシャレで楽しくて、何でもできる、才色兼備とい
う言葉がふさわしい人でした。小さい頃、私は曾祖母によくかわい
がってもらいました。折り紙を折ったり、散歩に行ったりしました。
七五三には着物を着せてもらいました。
 そんな曾祖母が、寝たきりになってしまいました。曾祖父の死、
転んで腰を痛めたこと。転んで骨折したこと。それに続く食欲低下、
さらには体力も低下。よく風邪をひき、肺炎などいろんな病気にか
かるようになりました。
 家族でお世話をするのが難しくなり、曾祖母は、老人ホームで暮
らし始めました。
 一週間に一回は必ず、私は祖母と一緒に会いに行きました。リハ
ビリを受けている曾祖母は、元気で、私を見て笑顔で話しかけてく
れました。家にいるときはお世話に追われ、笑顔が消えかけていた
祖母も、会話を楽しむゆとりができて、みんなが笑顔で過ごせてい
ました。

 ところが、やがて、思いがけないことが起こりました。曾祖母の
状態が悪化してしまったのです。
 大きい病院に運ばれ、手術を受け、やがて、もといた老人ホーム
に戻されてきた曾祖母。私は、親に連れられて、曾祖母に会いに行
きました。
 いままでなら笑顔で迎えてくれた曾祖母。だけど、そこには変わ
り果てた姿がありました。口を開け、点滴を打ちながら寝ている曾
祖母。私は、そんな曾祖母の姿に胸が苦しくなりました。
「大きいおばあちゃん、静香だよ〜。わかる〜?」
と声をかけました。すると、のどがつぶれたような音が、曾祖母の
口から出てきました。
 反応があることはうれしかったけれど、あの優しい声はもう聞け
ないんだと、かえって悲しくなりました。

 私の足は、だんだん遠ざかっていきました。その間にも曾祖母は
何度かの手術を繰り返しました。口から食事をとるのには、命の危
険がある。だから胃に直接食べ物を入れるのだと聞きました。
 大好きなすいかやメロンを食べられなくなったおばあちゃん。食
べられず、話せないどころか、意識があるのかどうかも分からない。
そんな状態で生きることに意味があるのか。

 母は曾祖母を見るたび言いました。
「あんなつらい思いをして生きながらえても楽しいことはないのに
ね。私がああなったら、延命治療はしなくていいからね」
 曾祖母の容態は、ますます悪化していきました。反応もできない
ような状態でした。
 そんな頃、久々に家族みんなで曾祖母に会いに行きました。曾祖
母は、私たちを見ると、うつろな目から涙を流しました。生きるこ
とで、曾祖母はこんなにもつらい思いをしていたんだなと、私は申
し訳なくなりました。

 皆さんなら、自分が曾祖母のような状態になったとき、それでも
生きていたいと思いますか。
 私には「延命治療」というものが分からなくなってきました。元
気になる見込みがない、本人にとってつらいだけの治療は要らない
のではないか。だけど、家族やその人を大切に思う者としては、治
療をやめるのも見殺しにするようでつらい。この医学が発達した現
代、人の命の長さをどう決めるのかは、本当に難しい問題だと思い
ます。

 今年の夏、曾祖母は、亡くなりました。
 できる限りの延命治療を受けて生き続けた末に、やっと訪れた死。
曾祖母はどう思っていたでしょう。
 いまは天国にいる大きいおばあちゃん、そっちでは大きいおじい
ちゃんに会えましたか?大好きなものを食べたり、好きな趣味がで
きたりしていますか? ときにはこっちをのぞいてください。私も、
家族のみんなも元気に暮らしていますよ。おばあちゃんが元気に暮
らしていることを、私は願っています。
 私に「生きる」ということの意味を考えさせてくれた大きいおば
あちゃん、いままで本当にありがとう。
 私はこれからも「命の長さ」の問題について考えていきます。

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