「古くなって使わなくなった野球道具が家にある人は、学校に持っ
て来て下さい」
と、高校生になって初めて野球部員として集合した私達に、先輩は
大声で言われました。何のために、どうして持って行かなければな
らないのか分かりませんでした。
それを尋ねる勇気もなく帰宅した私は、家の中を捜しました。す
ると、押入れには汚れたボールや糸のほつれたグローブ、物置には
何年も手にしていないホコリのかぶったバットなどが想い出と共に
たくさん出てきました。
次の日学校に古い野球道具を持って行くと、先輩から、グローブ
のほつれている所は針と糸で直し、汚れている物は綺麗にふいてか
らオイルを塗り、出来るだけ自分達で直すように言われました。
「面倒くせぇなぁ。こんな古いのどうするん。わけが分からん」
などと、友達と話しながら作業をしている所に、監督の先生が入っ
てこられました。
「頑張ってるか。この道具をどうするのか、皆、分かってるんだよ
な」
と言われたので、
「分かりません」
と声をそろえると、先生は野球部の練習場近くにある部屋に行くよ
うに言われました。
そこには、色々な国の子供達から送られてきた手紙と写真が飾ら
れていました。その写真には、破れたボールをグローブ代わりにし、
自分達で木を削って作ったバットを持って楽しそうに野球をしてい
る子供達が写っていました。そして、日本から送られたという、古
いボールやグローブを大事そうに持って満面の笑みで写っている子
供達の姿がありました。先生は、
「道具が無くても野球がしたい子供達が世界には沢山いる。この子
供達のために、野球人として、今できることをしようじゃないか」
と言われました。その時、私は誰のために、何のために行動してい
るのかが、やっと分かったのです。
私が所属する野球部では、2011年から国際協力機構JICAの
「世界の笑顔のために」というプログラムに協力させていただいて
います。野球道具を必要としているケニア、ジンバブエ、ブラジル
など世界八ヵ国の発展途上国に私達が使っていた古い野球道具を送
っています。また、今年からは近隣の高校にも呼びかけて野球道具
を集め、少しずつ協力してくれる高校も増えてきています。
今世界では、学校に行きたくても行けない子供達が約一億百万人
います。教えてくれる先生がいなかったり、教科書や学用品が足り
ないだけでなく、学校がない地域もあります。また、二億千八百万
人の子供達が過酷な労働を強いられています。家族の生活を支える
ために働かなければならないのです。子供だからと言って、好きな
ことを思い切りさせてもらえるとは限りません。ましてや、野球な
ど道具を必要とする遊びは、高額なお金がかかるため、させてもら
えないのです。
私は、野球部員として、このような小さな活動で、多くの子供達
が笑顔になれることを初めて知りました。先生は、
「一人で見る夢は、ただの夢。皆で見る夢は、実現への夢」
といつも言われます。一人で行動するよりも、皆で同じ夢を見て行
動に移す方がより大きな実現への夢が叶うと思います。試合に勝つ
ことも大切ですが、私はこのボランティア活動を通して、人の役に
立てることの大切さも学んでいます。
色々な国の子供達から送られてきた笑顔の写真と色々な言語で書
かれた「ありがとう」の文字を見る度に、私は恵まれた環境で野球
ができることへの有難さも感じ、頑張ろうと思えるのです。
私は将来、私の野球道具を使ってくれている子供達に会いに行き
たいと考えています。そして、共に野球をし、一人でも多くの子供
達の笑顔を見たいのです。これからも私は慣れない手つきで、一針、
一針、ほつれたグローブを縫いながら、世界の笑顔のために活動を
続けたいと思っています。
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