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倉敷東ライオンズクラブは岡山県倉敷市東部地域を中心に活動する奉仕団体です。

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尊い命              倉敷市立新田中学校 竹内 仁葉 さん


 今から四年前、東日本大震災が起こり、東北地方を中心に大きな
被害がありました。地震により建物が崩れ、その下敷きとなった人、
津波にのみ込まれた人、たくさんの方が命を落とされました。

 先日、「釜石の奇跡」というドキュメンタリ番組を見ました。そ
れは、弟にいつも意地悪して泣かせてばかりの兄が、大きな地震が
あった時に、津波がくる、ととっさに判断し、避難する際に自分の
命だけでなく、弟と祖母の命も救ったという内容でした。その男の
子は「どうして自分の命だけではなく、弟の命も救えたのか」とい
う質問に対して、「これからもずっと弟と生きていきたいから」と
答えました。私はその言葉を忘れることができません。私にも、五
歳下の弟がいます。よくちょっとしたことでけんかをしたり、嫌味
を言い合ったりしています。ですが、私はこれからも弟と生きてい
きたい、なんて考えたことはありませんでした。だって、いつもそ
ばにいる事が当たり前で、毎日のようにけんかをしたり、テレビを
見て笑い合ったり、朝食のおかずの量が多い、少ないで揉めたり、
もう、それは私の生活の一部となっているからです。他の家族もそ
うです。私は、きっと母の笑顔に元気づけられない日はありません。
父に怒られたり、兄と公園に行ってキャッチボールをしたり、弟の
玉子焼きを食べてしまって弟に睨まれたり。小さい頃からずっと一
緒に生きてきて、これからも家族とそばにいることが当たり前だと
思っていました。私は、今までこの世の中に家族がいない世界を想
像した事がなかったのです。東日本大震災により、家族を亡くした
人は数知れません。さらに、今この瞬間も世界では、交通事故や火
事や戦争に家族の命を奪われている人はたくさんいるのです。想像
してみてください。もう大切な人の笑顔を見ることが出来なくなる
ことを。その人の手に温もりがなくなることを。その人と話したり、
けんかをしたり、笑い合ったり出来なくなる恐怖と悲しみを。大切
な人が生きている喜びを感じませんか。この出来事が私を変えてく
れました。今までは当たり前のように感じていた日々の一瞬一瞬が
とても尊いものに思えました。私に大切な人とこれからもずっと生
きていきたい、と強く思わせてくれたのです。

 さて、私は先日、初めて原爆ドームを訪れ、平和記念資料館にも
行きました。展示物は私の予想をはるかに上回る残酷なものでした。
八時十五分で止まっている時計、亡くなった人が着ていた衣服、被
爆した幼い男の子が乗っていた三輪車などがありました。また、建
物疎開といって、爆撃により火が燃え移らないように木造家屋を取
り壊す作業をしていた子供達も被爆しました。自分と同年代の罪の
ない子供達が大勢亡くなったと知り、涙が止まりませんでした。

 展示物に当時銀行の前にあった石段がありました。その石段には、
黒い人型の影がうつっていました。なぜ影がうつっているのかと言
うと、朝、銀行の石段に腰掛けて銀行が開くのを待っている人がい
ました。そこに、原爆が投下されました。強烈な熱線が放射され、
その人は跡形もなく消えてしまったのです。だから、銀行の石段に
その人が腰掛けていたところだけ人の影のように黒く残り、それ以
外は熱線により白く焼けてしまったのです。八月六日午前八時十四
分までは確かにあった命が、一瞬で奪われたのです。衣服や身につ
けていたものまで消え、そこにいた人が誰なのかを証明するものは
ありません。だから、何人もの人が、そこに座っていた人は私の家
族だ、と言い張ったそうですが、確かめようがありませんでした。
遺体や遺留品までも家族の元に届かず、その人がそこにいたという
証拠は影だけでした。なんて悲しいことなんだろうと思いました。
その他にも数々の展示品があの朝の惨状を物語っていました。

 東日本大震災の津波で流され、亡くなった方や、原爆が投下され
た時、倒壊した建物の下敷きになって、生きながら焼かれ、亡くな
った方は亡くなる直前、どのようなことを考えたのでしょうか。家
族に会いたい、家族だけでも逃げてくれれば、もっと生きたい。亡
くなった方の遺留品を見ていると、そんな声が聞こえてくるようで
した。

 私は原爆が落とされた場所に立って思いました。ここは過去に、
たくさんの人が原子爆弾の犠牲となり、悲しみや憎しみがつまって
いる場所なんだと。その時私は誓いました。たくさんの人の犠牲と
努力によって保たれている平和な世界で、大切な人と生きていける
ことに感謝して生きていく。また、平和な世界をこれからも受け継
いでいき、命を大切にするということを。

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