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倉敷東ライオンズクラブは岡山県倉敷市東部地域を中心に活動する奉仕団体です。

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本が持つ力             倉敷市立東陽中学校 岡田 莉歩 さん


「あ〜あっ。こんなはずじゃあなかったのに……」
職場体験の二日目、私はフテまくっていました。

 私は読書が大好き。本は私の第二の友だち。辛いときには心の支えにもなってくれる大切な存在です。

 「どんな職場に行きたい?」そう聞かれたとき、迷わず「図書館」と答えました。頭に浮かんでいたのは、図書委員の仕事。バーコードをピッピッと鳴らして手続きをしてくれます。「おもしろそう」……そう思って行ったのに、公共図書館は、見事に期待を裏切ってくれました。

 一番たくさんしたのは、本を棚に置く作業です。新しく入った本にバーコードを貼り付けること。そして、ブックカバーを付けること。図書館というところは、静かに読書をする空間です。だから、黙々と同じ作業の繰り返しで飽き飽きしてしまいます。あと少しの辛抱。我慢がまんの職場体験最終日の午後、その人と出会いました。
「職場体験?」
軽い口調で声をかけられて振り向くと、60歳を越えたくらいに見える男の人が立っていました。
「そう、がんばってな。」
そう言いながら目は、一冊の本に向けられました。
「わし、これなんよ。」
指さされた本の題名は「心筋梗塞」。えっ?と見返した男の人は、少し痩せてはいるものの、普通の顔色に見えます。
「あと半年もつかもたんか……やと。」
驚くほど明るい口調にどう答えればいいかも分からず、黙り込んでしまった私。男の人は真っすぐ私の目を見て続けました。
「本は良い。中学生という時期は、本当に大事なんだよ。だから、たくさん本を読んで。」
「おじさんからのお願いだよ。」
柔らかな優しい表情でした。本当にこの人が、半年後この世からいなくなるんだろうか。そんなに人の命は儚いものなのか。……そんな思いが頭の中を駆け巡りました。
「じゃあ、またね。」
その人が手を振って去って行こうとしたとき、司書さんが出て来られました。
「あの人ね……。」
私の表情に気付いたのか、司書さんは男の人のことを教えてくれました。この図書館をよく利用している人で、さっきのように、自分の病気のことをよくしゃべっていること。そして、あの人が指した本がある棚は、実は、あの人のためのコーナーであること。見れば、本棚の半分くらい「心筋梗塞」関係の本が並んでいます。
「でも、本人さんは読む気がないんだよねぇ。」
「『作ってくれてありがたいんだけど……』『こんなん読んでも……』って。」
そう言う男の人に司書さんは勧めるのだそうです。「そんなこと言わずに……」と。 何だかすごいな、と思いました。ひとりの人のために必要な本を集めて、コーナーまで作ってしまう司書さん。その気持ちは、あの人にもしっかり伝わっていると思います。自分の余命があと半年だなんて、本当は不安で心細いに違いない。あの男の人にとって、図書館とは自分のことを気遣い励ましてくれる人がいる場所。そして、大好きな本がある場所。

 このとき私は、本のすごさに気が付きました。重い病気でも体が不自由でも、本を読むことで心は自由になれる。本を通して、人と人は心を繋ぐことができる。あの男の人にとって本を読むことは、病気や死の不安から自由になれること。本にはすごい力がある。そして、その本に関わる仕事をする人たちにも。

 たった二日間の図書館での職場体験。それは、私のイメージとは遠くかけ離れているものでした。仕事量の多さ、単調に思える作業。それでも、私は今まで以上に「図書館司書になりたい」と思うようになりました。

 大好きな本に関わる仕事。人の心に関わる仕事。そんな仕事に就くという夢を叶えるためにも、私はこれからも本を読もうと思います。
「中学生という時期は本当に大事。だから、たくさん本を読んで。」
あの男の人の言葉を、真摯に受け止めて。

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